543段 聖覚法師の力者法師が築地修理の工人をののしる事


持明院の棗堂(なつめどう)の前を聖覚法印が通った時の話。
堂の築地を工人たちが修理しながら世間話をしていたのだが、聖覚法印の説法の雑談をした時、たまたま法印ご本人が輿(こし)にゆられて通りかかった。作業着姿の男たちが「聖覚が」「聖覚が」と自分の名前をわいわい呼び捨て合っている。それを従者の力者法師(肉体労働従事の僧)たちが聞きとがめ、工人たちをこんな風に怒鳴り散らした。
「おやまきの聖覚や、ははまきの聖覚や」
大変に訳しにくいのだが、直訳すると「ははまき」は母枕き、母親と××した聖覚という意だが、これは中指立ててのマザ○ファック(=このくそったれが)なるスラングに通じるものではないかと思う。
力者法師らの尊敬する聖覚法印の名を軽々しく呼び捨てている工人らにカッときたのかもしれない。それほど教養もないためにこういった下品な罵倒をしたのだろう。
で、そんなシモジモの言葉を使ったこともない聖覚法印はびっくり、まるで自分が従者たちに罵られたのかと思いました、と後に人に語った。




544段 外宮権禰宜渡会盛広、妻に筑紫女を抱きたいと願う事


伊勢の外宮の権禰宜(ごんのねぎ)・渡会盛広(わたらいもりひろ)の妻の召使女に、筑紫出身の女がいた。この筑紫女に盛広がご執心、なんとかスキを見つけて二人きりになれないものか、とチャンスをうかがっていたが、なかなかうまくいかない。
とうとう辛抱しきれなくなった盛広、ある日妻に相談した。
「その、ちょっと言い出しにくいのだが、そなたの使っている筑紫の女と逢わせてくれんかの。どうしても確認したいことがあるのじゃ。あの女は単なる下女、そなたが気にするような身分の者でもあるまいから、かまわんじゃろ?」
「あの女は美人でもありませんし、気立ても物腰もまったく普通の女ですよ。どこがお気に召したのですか」
と妻は首をかしげる。
「知らんのか、『つびは筑紫つび』という俗説を。
筑紫女のオ×ンコは第一の名器だそうだ。挿入時の気持ちよさったらハンパないらしい。顔だの物腰だのは暗い部屋ではどうでもいい。一度でいいからどうしても体験してみたくて、こうして手を合わせてそなたにお願いしているのじゃ」
「そうでしたか。それなら召使女の一人や二人、お安いご用でございますが、あなたの信じている俗説はうさんくさい話のようですよ。なぜなら『まらは伊勢まら』、伊勢男のイチモツが最上だと言われているようですが、伊勢男のあなたのあまりに貧弱なモノを見ていますと、筑紫つびの噂もあてになりませんわ。がっかりする前にやめておいた方がよろしいと思いますよ」
妻の容赦ない指摘に、盛広は男としてのプライドをいたく傷つけられたという。




545段 山僧が稚児を伴って竹生島参詣、水練を見る事 


ある時、山僧(=比叡山延暦寺の僧)たちが、稚児らを伴って、琵琶湖に浮かぶ竹生島に参詣したことがあった。竹生島は、聖徳天皇の夢枕に立った天照皇大神が「湖中の小島は弁財天の聖地であるぞ」と告げられ、僧行基が堂塔を建立した由緒ある島だ。
その竹生島での巡礼が終わり、そろそろ帰ろうかという時になって、稚児たちが、
「この島のお坊さまたちは皆、泳ぎの達人だと聞いたことがあります。びっくりするような水練の技をお持ちだそうですよ。本当なら、ぜひ見てみたいです」
とねだる。山僧たちは島の住僧のもとに、
「ウチの小さい子たちがこのようなことを申しておりますが、何とか都合つけてもらえませんか」
と使いをやったが、
「お安いご用ですよ、と言いたいところですが、あいにく水練に慣れている若手の僧らが所用で島を出払っていまして」
との返事。それなら仕方ないなあ、と稚児らはがっかり。帰途についた。島から舟に乗り、しばらく漕いでいると、きちんと身なりを整えた、70歳はゆうに超えるかと見える老僧がただ一人、立派な僧衣を脛までかきあげ、湖面をさくさく歩いてこちらに向かって来るではないか。舟の一行は驚き唖然、「なんとも不思議な光景よ」と舟をとめて眺めていると、水面を渡ってきた老僧が、
「いやいや本当に申し訳ない、小さいお方たちはお願いが叶わなくて、さぞかしがっかりしておられるでしょうな。残念ながら、皆さま方の喜びそうなワザができる若い僧らが全員留守でしてな。くれぐれもよろしく伝えておくように、と言われて参りましたのじゃ」
と言って、また湖面を歩いて岸に帰っていった。
こんな不思議な水渡りの術は見たことがない、と舟の一行は大喜び。大満足で帰ったという。




546段 宮腹の某女房の局で、みそか法師がお漏らしする事


ある宮腹の女房のもとに、夜な夜な通うみそか法師がいた。
みそか法師は隠れて夜這う法師のこと。宮腹とは皇女を母として生まれること。つまり色々な事情で女房になり下がっているとは言え、お祖父さんが天皇だったかもしれない女房の局でのハプニングである。
ある晩、女房のもとに夜這いにやって来た法師がコトを済ませて寝ていた。が、尿意を感じて目が覚めた。灯りが消えているので部屋は真っ暗。トイレ用の穴の場所がよくわからない。
「暗くて穴がわからん」
と女房に聞くと、
「竹ざおの下に穴がありますでしょう。探ればわかりますわ」
との答え。当時、女房の部屋のトイレは部屋の隅(すみ)、つまり隣の局に近い、衣服掛け用の竹ざお下辺りにあり、さおに掛けた衣装の向こうで隠れて用をたしていたのではないかと考えられる。法師は手探りでそのトイレ穴を探し当てた。やれやれ、いざ放尿という時になって急にオナラも出そうになった。
(ううっどうしよう。小便はともかく、オナラを同時に出したら、音やニオイで女に絶対嫌われる)
放尿寸止めで逡巡している法師。女房は法師が穴を見つけられないと思い、教えようと真っ暗な中を手探りで近づいてきた。その手が運悪く尿意をガマンして悩んでいる法師の脇の下に突っ込まれたものだからたまらない。「あひゃひゃひゃ」とくすぐったさに耐えられず、小便もオナラも一緒に出てしまったのだ。しかも、穴に突っ込んでいたイチモツも若干外れたため、くすぐったさのあまりの体の動きとともに、小便をあたり一面に飛び散らせてしまうはめに。隣の局との隔ての遣戸の隙間から小便が飛び散ってしまい、遣戸のすぐウラで寝ていた隣室の女房の顔にかかってしまった。何も知らない隣の女房は、「あら、雨漏りかしら」と起き出して、ブツブツ言いながら天井の雨漏りしている場所を探し始めた。
なんともおかしな話である。
実名明記が多いこの本だが、宮腹の女房名も法師の名もあらわにされていないあたりが、あまりに恥ずかしいハプニングだったことを想像させる。







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