第507段 興言利口は場を盛り上げ楽しませる事


場を盛り上げる即興の笑い話・洒落話、あるいは露骨に卑猥な下ネタ話などの紹介。




第508段 競馬の敗者をおもしろく批評した大納言経信の事


関白忠実公の随身・下野敦末が競馬(くらべうま)を務めることになったが、馬を十回走らせて十回とも負けてしまった。
対戦相手の実力が明らかに格上というわけでもないのに、この敦末、馬を替えては負けるたびに、主人の信頼がどんどん遠ざかっていくのをヒシヒシと感じていたに違いない。相当あせっていたと思われる10連敗であった。
この負けっぷりを見ていた大納言経信殿が一言、
「不運の十番勝負か。絵に描いたようなツイてなさじゃな」
そうつぶやいたのが面白かった。が、敦末のその後を想像すると笑うに笑えない状況だ。




第509段 家来のお仕置きに千秋万歳を舞わせた忠実の事


関白忠実公がある時、家来の武士を厳しく叱責した。家来の方に落ち度があったと思われるのだが、罰として千秋万歳を舞わせたらしい。ご丁寧にお囃子までつけさせて。
こんなお仕置きありえない、ありえないと思う。が、事を荒立てる事態にならずに済んだなら、風流な処置とも言えようか。




第510段 衣装を着けずに主君頼長を出迎えた臣下有盛の事


オレ藤原有盛。薩摩の守でただいま左府頼長公の臣下。
オレは今のっぴきならない状態になっている。お気に入りの女と宇治までデートして、あこがれのカーセックスに突入!しかけようとした矢先、外にいる従者の、
「だんなさま大変です!向こうからお殿さまの家来の方が馬でやってきます」
との声。小窓からのぞくとやばいどうしよう、頼長さま一行がこっちに向かってくる。本日宇治への出張なんてあったっけ。つか役立たずの従者め、もう至近距離じゃないか。隠れようにもあちらからはお見通しだろうし、もっと早く気付け阿呆が。
うわー来た!あっ止まった。やばいますますやばい、早く車から出ないと不審がられて頼長さまの家来に中を見られてしまう。女はテンパって衣を着るどころかかぶって震えてるだけだし、オレも自分では下着を着るのがせいいっぱい。格上の方の前に出られるような着付けが一人でできるもんか。
出るのかこの格好で?下着一枚で平伏?伝説に残ってしまうわそんなの。つか頼長さまホモなんだよな。こんな恥ずかしい姿を見て、急に欲情なさったらオレどうしたらいいんだ。
大丈夫だよなオレ30歳越えの中年だし相手になんてされないよな。「あられもない姿で私を誘ってるんだなww」なんて誤解されないよな。
よし…降りるぞ。車を降りて臣下としての礼儀は尽くさないとな。
ああ神さま仏さま、どうかオレの体面と尻の穴を守ってください。




第511段 内覧の大臣頼長の顔を知らなかった蔵人判官の事


仁平2年3月25日、帝(近衛天皇)の石清水八幡宮への行幸にて、蔵人で検非違使判官・藤原範貞が舞人を務めたことがあった。この時、左大臣頼長公が本殿でごく個人的な請文を奉納していたのだが、なんとこの範貞は、本殿から出てきた頼長公がすぐそばを通り過ぎようとしているにも関わらず、一礼だにせずただ突っ立っているだけ。
不審に思った頼長が、
「おまえは私を知らぬか」
と訊ねると「知りません」との返事。微妙に緊迫した空気が周囲の者を包む。機嫌を損ねた大臣の指先ひとつで、範貞の首などひとっ飛び。その場で解雇だ。大臣の姿を拝めない職務ならいざ知らず、日ごろ蔵人として帝と公卿の間を行ったり来たりしている範貞が内覧殿を知らないなんてあり得るのか。平伏ばっかりしてて、指貫と下襲の柄でしか内覧殿を確認してないとか?
きょとんとしている範貞と若干うろたえ気味の大臣。もう何年も「あなたを知らない」なんて言われたことがないに違いない。
ものが言えないほどあきれたせいか、はたまたここでキレるのは大人げないと判断したのか、大臣頼長はそのまま何事もなかったかのように通り過ぎていったという。




第512段 主人の馬を上手にねだった家来の事と荘園での話


藤中納言家成卿が秘蔵している黒馬を、下野武正という随身があまりに欲しがるので、卿は、
「おまえが欲しい欲しいと思うほど、私は惜しい惜しいと思うぞ」
と言ってやった。武正は「クッ…チ、チクショー」みたいな顔でその時は下がった。しばらくして雪の降った寒い朝、中納言邸で雪見の宴があって、鷹匠の武正は酒の肴として鳥を枝にくくりつけて献上した。
「おお武正がこれを。気が利いているな。ふむ、本日の武正は、雪見の酒肴の使いにふさわしいいでたちで町中をやって来たかな。これ、そなた武正の狩衣の色と馬の様子を見て参れ」
中納言は家来の一人にそう言いつけた。家来は控えている武正を確認して戻り、
「褐返し(かちかえし=濃紺よりさらに暗く深い色)の狩衣に、何やらごちゃごちゃと飾り立てた葦毛の荷駄馬で…何と申しますか、とにかく悪目立ちしすぎな格好でして」
と申し上げた。
「悪目立ちな格好だと?そんな姿で町中を歩き回られたら、主人のこの私がいいわらい者になってしまうではないか。
ハッもしやそれが狙いなのか。うーむ、武正め考えたな」
不恰好な馬でのろのろ歩く従者より、素敵な駿馬に騎乗する従者の方が、(従者が仕える)主人の体面も保てるというもの。目的の物を得るために、主人の説得より、世間体を気にする主人の心理を狙った武正の計略に感心した中納言は、秘蔵の黒馬を武正に与えてやったという。
これも同じ藤中納言家成卿の話だが、中納言の大和国の荘園から都へ収める荷物を運ぶのに、監督の者が人夫たちより先に都に向けて出発した。が、出発早々馬の背に揺られて居眠りを始め、手綱も放して馬まかせで歩いていた。当然その馬はもと居た場所に戻ろうとし、後から出発した人夫らと途中の道ですれ違う。監督の者は人夫らの、
「どこ行くんです?そっち行ったら戻っちゃいますよー」
という声でようやく目を覚ました。ねぼけた監督官は、自分と逆方向に歩く人夫らが都へ行かずに逃亡しようとしているものとカン違いし、問答無用で叱り飛ばし逮捕したという。人夫らこそいい迷惑な話であった。



         


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