579段 怪異の畏れ慎むべき事


怪異に出会えば物忌みをして誰しも身を慎まねばならない。
しかし白居易が『凶宅の詩』で、「凶なるものは場所がつくるものではなく、人の惑う心がつくり上げるものなのだ」
とうたっているように、そこに住んでる人に不幸が生じるのは、屋敷や場所が悪いのでなく、その人の本質が招きよせるものなのだ。
あらゆる怪異も妖言も、そのもとをたどってゆけば必ず、人間不信や恨み、社会不安というものが根底にあるのだ。




580段 延長八年七月、流星怪雲等の事


延長8年(930)7月15日酉の時刻(午後5時〜7時)、怪しく輝く大きな流星が、東北の方向に落ちていき、流星の軌跡は雲となったそうな。その後、
「あの流れ星は、高貴なお方の人魂でないか」
と世間で噂になった。
また、同月20日、黒雲が西南方向よりわき上がり、龍尾檀(大極殿前庭の階段)を覆うやいなや、激しい風が吹き、5、6丈(1丈約3m)もの大蛇が落ちてきた。大蛇は欄干を壊したが、その後大蛇の姿はかき消えてしまったという。
この事件のわずか二ヶ月後、道真公の祟りではないかと言われた(清涼殿への)落雷で、心身消耗された醍醐天皇が崩御されたということもあり、これら不吉な現象は、何かその辺りの予兆だったのだろうか。




581段 出雲の黒島が忽然と消え、無数の石が出現した事


出雲国の宍道湖の沖合いに、黒島という名の小さな島があった。海藻などが多く採れる島だったが、天慶3年(940)12月上旬のある朝、忽然と姿を消してしまった。島があったはずの場所には大小無数の石がごろごろと山のように積み重なり、たいそう気味の悪い光景だったという。




582段 出雲国島根楯縫郡の境に氷塔が出現した事


前段の事件があった次の年の正月下旬、今度も同じ出雲の国の浜辺で、夜中に長い鉾(ほこ)を打つような不気味な音が、ずっと響いていたことがあった。夜が明けると、島根半島の西から中央までの長い距離に、延々と氷の塔が立ち並んでいた。氷の塔の高さは3丈あまり。太さはぐるりとひとめぐり7、8尺(1尺約30cm)ほどもあっただろうか。日が昇るにつれ、次第にとけて消えてしまったそうだが、何者のしわざだったのか、誰にもわからない。
天慶3年といえば平将門による天慶の乱。将門公の首が葬られるやいやな、各地で天変地異が続き始めたそうな。この不思議な現象もその一つなのかもしれぬ。






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