斉信君のおいでませ伊勢物語     〜第十五夜〜



昔、『男』が密かに恋する女がいました。『男』の気持ちを知っているのか知らないのか、その女はとってもつれない態度でしたので、『男』は、


恋ひわびぬ海人の刈る藻にやどるてふ我から身をもくだきつるかな
(あなたのことがずっと好きなのに。漁師の刈る海藻に紛れる「われから虫」のように、みずから悩み苦しみ…独りでモヤモヤしています)


と歌を贈ったのでした。


見習い
「われから虫(注1)ってメジャーな生き物なんですか。初めて聞きました」
斉信
「そうだね、『自ら』の掛詞としてはメジャーな言葉だよ。何たって、言葉のひびきがいいからね。切ない感じがするんだ。
海藻の中に棲みついている虫で大きさはごく小さくて1cm位。見た目はカマキリで、藻の上を尺取虫のように歩く、藻の中で手をグーにしたら簡単に捕まるくらい普通にいるそうだよ。あ、全部聞いた話さ。都の住人が海の生き物なんて知るわけないからね。
全国各地で獲れた干しワカメのヒダヒダの間に、干からびた我殻(われから)虫がたくさんいるはずさ。小さくてすごく細っこいからちっとも目立たないけど。乾いて体表の殻がペリペリに割れた我殻虫が、『切ない恋に身をくだき』と想像させるんだ」
見習い
「虫と悲恋…語感ひとつで何でもこじつけますネー」
斉信
「余談だけど、我殻虫がオゴノリなんかに紛れていたら、本当に目立たない。だから、殺生を禁じる仏教で一番エライお上人さまでさえ、我殻虫を海藻を一緒に食べているじゃないかということで『われから食わぬ上人なし』なる格言が出来た」
見習い
「肉食べるときの言い訳に使う格言ですか」
斉信
「違うよ。海藻で精進料理を食べたつもりでいると、我殻虫みたいな動物をうっかり食べてるぞ〜と警告してるんだよ。つまり、『物事に絶対なんて無い』という意味なんだ」
見習い
「美しくも何ともないちっぽけな虫を、よくまあ和歌として詠み込めますね。虫の殻から恋にこの身を砕き〜が連想できるなんて、妄想バンザイですよ」
斉信
「清少納言も『我殻虫、(・∀・)イイ!!』って決め打ちしてるしね。あ、またまた余談だけど、和歌を魔法の呪文のように唱えちゃおうっていう物語(注2)を以前読んだんだ」
見習い
「和歌とファンタジーの合体物語ですか」
斉信
「謎の連続殺人事件の真相は、言霊を自在に操れる怪人が唱える和歌によるものだった、っていう筋書き。その和歌のひとつにこの五十七段の歌が使われている」
見習い
「すごい発想ですね」
斉信
「恋ひわびぬ〜身をも砕きつるかな!と唱えると、言霊パワーで相手が爆死」
見習い
「ヒャー、歌の本当の意味は完全に無視ですか」
斉信
「血の涙おちてぞたぎつ白川は(素性法師)〜と唱えたら、血の涙が吹き出て止まらなくなったり」
見習い
「それ、死を悼む本当に悲しい歌なのに」
斉信
「マジキモい!や二重敬語やラ抜き言葉、乱れた日本語を話す者をε=(怒゚Д゚)逝ってヨシ!と成敗しまくるんだ。和歌の言葉どおりに首が飛んだり雷が落ちたり。後半、敵味方に分かれての和歌バトルがなかなか見もので」
見習い
「和歌のホラー。そんなジャンルが」
斉信
「恐るべきおバカ系ホラーだぞ。和歌攻撃にもレベルがあって、「そのレベルの歌では攻撃パワーが足りぬ」なんてね。
ごめん、ずいぶん脱線してしまった。次58段行こうか。


昔、思いやりがあって気配りのできる風流な『男』が、昔の都の跡地・長岡に住んでいました。お隣には由緒ある宮家がありました。
そこにはなかなか素敵な女たちがお仕えしていました。のどかな田舎でしたので、あるとき『男』が田んぼの稲刈りをしようとすると、
「まあまあなんて風流なお仕事ですこと」
と女たちが見物に集まってきました。『男』は驚いて家の奥に隠れてしまいましたが、どやどやと入ってきた女たちがもの珍しそうに家の中を見回して、


荒れにけりあはれ幾世の宿なれや住みけむひとのおとづれもせぬ
(いったい何代の人が住んだのですか?この荒れ具合…今までこのお家にゆかりのある人たちが誰も訪ねて来ないからなんでしょうねえ)


と言い、『男』の家に居座ってしまったのです。『男』は、


葎生ひて荒れたる宿のうれたきはかりにも鬼のすだくなりけり
(葎の生える荒れた家の何がイヤかって?それはね、こんな風にちょっと何かしようとすると、すぐに(美女に化けた)鬼たちが寄り集まってくる事ですよ)


奥からそう返事を書いてさし出しました。すると女たちは、
「あら、それなら稲刈りが終わったあとの落ち穂拾いをしてさしあげますわ」
と言ったので、『男』は、


うちわびて落穂ひろふと聞かませば我も田面(たづら)にゆかましものを
(もしあなた方が零落してしまっているのでしたら、私は喜んで落穂拾いのお手伝いをさせていただくんですけどね、結構な暮らしのご様子に見えますしねえ・・・ま、私は行かないのであなた方は好きにしたらいいですよ)


と答えたのでした。


遷都まもない京の都の郊外に住む、よろしき身分の人たちのやりとりだ」
見習い
「稲刈りするだの、でも田んぼには行かないだの、男の行動がよくわかりません」
斉信
「この身分の『男』が直接田んぼに出向いて稲刈りするわけないだろ。使用人に命令する立場なんだからさ。だから歌で、「皆さんが生活に困ってらっしゃるんなら、この私自身が(わざわざ)田んぼで腰をかがめて落穂拾いしますよ」って言ってるんだ」
見習い
「でも『ませば』は事実に反する推測に使う助動詞ですから、この女の人たちは特に暮らしに困っているわけじゃないんですね」
斉信
「そう。ズケズケと家に上がりこみ、物珍しいこと(稲刈り)をするなら見物させろと居座る。女も複数集まれば、ずいぶん厚かましい行為を平気でするんだねえ」
見習い
「でもこの『男』、邪険に追い出したりしてませんよ」
斉信
「人少なな田舎のご近所同士、今後の付き合い方に問題を残す態度をとっちゃまずい。機嫌よく帰っていただくには、この『男』のあしらい方は満点だろうね」
見習い
「でも鬼って言うてますよ」
斉信
「鬼が男を惑わすときは美女に化けて近づくものだと古来より相場が決まってる。私の住む葎の宿が鬼すだく=私を誘惑しに美女がいっぱい!おおコワッ!そう言われて悪い気はしないし、お互い真剣に落穂を拾わねばならないような暮らし向きでもないでしょう?と自尊心をくすぐられると、さらに悪い気はしないものだ」
見習い
「手ごわい姐さんたちをのせるのが上手いんですねー。お世辞とわかっていても、ヨイショされると気分よくなります」
斉信
「調子に乗っておしゃべりが止まらなくなる危険もあるけどさ」


昔、ある『男』が何を思いつめたのか、東山に隠棲してしまいたいと本気で考えました。


住みわびぬ今はかぎりと山里に身をかくすべき宿求めてむ
(都にいるだけでつらい。宿を見つけて、たった今からでも山里に隠れてしまいたいんだ)


そのうちにこの『男』は重い病気になり、危篤状態になってしまいました。
あわてた家来たちが『男』の顔に気つけの水をかけたりしまして、『男』は何とか息を吹き返しました。


わが上に露ぞ置くなる天の河とわたる舟の櫂(かい)のしずくか
(ああ、まるで私の顔に、天の川を渡る舟の櫂のしずくがこぼれかかっているようだ)


と言って、息を吹き返したのでした。


見習い
「何があったか書いてませんが、この59段の『男』、すいぶん心に深い傷を負う経験したんですね。現実逃避から病気になっちゃいましたよ」
斉信
「愛の殉教者の『男』のことだから、一つの恋愛が燃焼しきれないまま終わってしまい、引きずり続けた結果、心身症に移行したという仮説が立つ。ストレスのたまりやすい性質なのかな」
見習い
「過度のストレスによる心身症で危篤になったりするんですか」
斉信
「たかが心の悩みと侮っちゃいけない。免疫力が低下したり難聴になったり円形脱毛症になったり。あと、虚血状態が深刻な心臓発作を引き起こす」
見習い
「もう恋愛問題のもつれと決め込んでますが、純愛の執着って恐ろしいですね。重度の心身症から何とか生還してよかったです」
斉信
「臨死状態から奇跡的に息を吹き返すまでの短い間に、本人の価値観が変わるようなすごいことが、彼の内面で起きたんじゃないかな。ほら、たまに聞くだろう。三途の川の手前で旧知の人たちに「君はまだ生きてやるべきことがあるよ」と言われたとか、暗い穴を抜けたらあまりにも幸せな光に包まれて現世欲がなくなったとかさ」
見習い
「(オカルトかい…)話の本筋がだんだんズレていってるような」
斉信
「いやいや、二番目の歌で『天の川のしずく』と言ってるだろう?仮死状態の時、満天の星の輝きを集めたいわば命のしずくとも言えるものに出会ったんだ。とにかく、一度死んだことで、彼はようやく愛の呪縛から解放されたんだよ。
次は非常に有名な60段だ」


昔、『男』がいました。宮仕えの仕事が忙しいうえにそれほど誠実な夫でもなかったので、夫の妻はもっと自分を愛してくれる実直な人のもとへ身を寄せ、他国へ嫁いだのでした。
その後『男』は宇佐神宮の勅使になり、豊前国(大分県)に遣わされることとなったのですが、各地で歓待を受けながら目的地に向かう『男』は、その途中の国の祗承(しぞう=勅使を接待する役人)の妻に、かつての自分の妻がいると知り、
「そなたの妻に(酒を)注がせよ。さもなくば歓待の酒は呑まぬ」
と言いました。接待役の祗承は勅使の命令に背くわけにもいかないので、妻にもてなしの酒を注がせました。勅使の『男』は酒の肴として置いてあった橘の実を手にし、


五月まつ花たちばなの香をかげば昔の人の袖の香ぞする
(五月を待って咲き始める橘の花の香りは、昔の恋人が振る袖の香りを思い出させてならない)


とつぶやきました。祗承の妻が、いつこの『男』がもとの夫だと気づいたかはわかりません。ですが、『男』との、忘れかけていた記憶をまざまざと思い出し、思いつめて出家してしまったのでした。


斉信
「橘は実さえ花さえその葉さえ…と万葉集にあるように、花も実も樹も香りが高い。花と実が同時に見られることから非時(ときじく)の香菓(かぐのこのみ)と賞賛されている」
見習い
「以前、5月に興福寺に行った時、白い花と青い実が一緒に
なっているのを見かけたことありますよ」
斉信
「大きさは金柑くらい。黄色を帯びた実なんかはまさしく『黄金の珠かとぞ見ゆる』風情満点だ。味は…とにかく酸っぱい、めちゃくちゃ酸っぱい。盃の横に置いてあったのは、酒の肴として食するというより、橘の実の発する香気で『男』を迎えたんだと思う。
客人を迎えるときは、良い香りを部屋に漂わせるのが礼儀なんだ」
見習い
「橘って、ハッと目が覚めるようなすがすがしさですよね。甘くさわやかで、清冽という言葉がピッタリくるような」
斉信
「かつての自分の妻を前にして、目が覚めるようなみずみずしい香気が鼻先をくすぐったとき、すっかり忘れていた記憶がよみがえったんだね。香りにはそういう働きがある。
橘の花や果皮をきざんで乾かしたものを、匂い袋にして袖の中にしのばせていた妻の姿を思い出しただけかもしれない。あるいは、橘の花の香りがただよう五月闇(さつきやみ)の中での、妻との仲睦まじかった行為を思い出したのかもしれない。
知ってるかい?夜の柑橘系の花の香りを。同じ香りなのに、昼は甘くさわやか、そして夜は身体にまとわりついてくるような魅惑的な香りになるんだ。視覚がなくなるぶん、夜のほうが強い香気を発してる気がするね。昼は淑女で夜は娼婦みたいな…ゲホゲホ、まあそういうことさ。出て行った妻をもう恨んでもいないようだし、『男』なりに愛していた気持ちを歌にのせてる。過去の記憶をしのぶ、素敵な歌だ」
見習い
「ちなみに、中将さまの橘の香りの思い出は何ですか」
斉信
「私かい?そうだなあ…そうそう、競馬(くらべうま)の興奮だな。見物客はギッシリ、馬たちは準備を終えてスタート地点で元気よく輪を描いて歩いている、開始まであと数分、緊張感がもうすぐ頂点になるぞなるぞ!この高揚感が、馬場のわきで咲く橘の香りと相まって…やはり香りと記憶は直結するという説はうなずけるものがあるね」
見習い
「ダントツに支持されている和歌ですが、このあと妻は出家しちゃいました。
仕事人間だったけど、淡白な性質なりに私のこと愛してくれてたのに、私ったら…!と後悔もし、でも今の夫を捨てるなんてできないと苦しんだ挙句の出家なのかなあ」
斉信
「かわいそうに、この一件で祗承夫婦は離婚だよ。一番の被害者は、今日まで平穏に暮らしていた祗承かな。
やれやれ、勅使の『男』も罪なことをしたもんだ」
見習い
「それじゃあ次、61段です。


昔、『男』が九州の筑紫というところに行ったとき、あるお屋敷の簾(すだれ)の中の女の人が、
「この人はね、色好みで有名な人なんですってよ」
と(他の人に)言っているのを聞いて、こう返事しました。


染河をわたらむ人のいかでかは色になるてふことのなからむ
(筑紫に入るときに必ず染河を渡るのですから、どうしてその色に染まらないことがありましょうか)


この歌に女は、


名にし負はばあだにぞあるべきたはれ島浪の濡衣きるといふなり
(その名のとおりなら浮気ものなはずのたはれ島でさえ、濡れ衣着せられているそうじゃありませんか)


と答えました。


うう〜ん、歌を直訳することはできても、隠された真意を読み取れません。難しいです」
斉信
「簾の中の女人たちが、
『この人ってとっても恋多き男性なんですって!』
と噂し合っていたのが聞こえたんだ。それで『男』が地元を流れる川の名をうまく歌に混ぜて、
『あの河のせいですよ。あの河の名前があんなだから、色に染まっちゃってネ。ですからホラ、あなたがとっても素敵に』
とさっそくナンパだ。本当にマメだよなあ。弁解してるんじゃなくて戯れながら口説いてるんだ。わかるかい?」
見習い
「キャーやっぱ都人は歌ぶりもステキ!って簾の中はさぞかしにぎやかだったでしょうね」
斉信
「清少納言が『島は、たはれ島が(・∀・)イイ!!』と言ってるのは、伊勢物語で使われたからさ。われから虫もたはれ島も、実際にその目で見たことのある都人なんてほとんどいないだろうね。
『あの物語で、あの文献で使われたからステキなの』と先入観だけで成立しているのはよくあることだ」
見習い
「肥後の小島の風流(=たわむれ?=たはれ)島でさえその名のせいで浮気者の濡れ衣きせられてますものね、って詠みかけてますけど…『男』の色好みも濡れ衣ってことですか?

斉信
「解釈違うね。無関係とか単なる噂とか、そういうことだよ。たはれ島=浮気者なんてのはただの噂、染河渡ったから色好みになったなんてのもまったく無関係な言い訳。つまり、女たちが言いたいのは、
『染河渡る渡らない関係なしに、あなたは最初から色好みよ』
ってことさ」
見習い
「(裏読みばっかりでわからん…)そういう意味合いで詠むなら、たはれ島を例にとって『たはれ島は浮気者の濡れ衣着せられているだけ』って歌は、ちょっと違うんじゃないかと」
斉信
「逆、逆。たはれ島は名前だけ、でもあなたは根っからの色好み、そうやって女たちは戯れ返しているのさ。屋敷にお仕えする女房たちというより、屋敷の主人のもとに出入りする遊び女っぽいね。京からはるばる大宰府にやってきたエライ人の無聊をなぐさめる、そこそこに教養のある遊び女たち。
この段のやりとりは、とてもコケティッシュな匂いがするなあ」


昔、『男』の訪れが間遠になっていた女が、寂しさに耐えられなかったからなのか、あてにもならない人の言葉を信用して地方へ下っていきました。女は地方官の家の使用人に成り下がり、ある時、元の夫の『男』がこの地方官の屋敷に立ち寄ったことがありました。女は食事の上げ下げなどしていたのですが、夜になって『男』が、
「さきほどの女をここに呼んでほしいのだが」
と女を呼びました。
「私を覚えているか。


いにしへのにほひはいづら桜花こけるからともなりにけるかな
(花をこそいで何にもなくなった桜の木の幹のように、昔の匂いたつ美しさはどこへやら。君はすっかり痩せて、ホント見る影もなくなったなあ) 」


『男』は女に向かってそう言いました。女は恥ずかしくて何も言い出せません。
「何か言ったらどうなんだ」
と『男』に促されても、女は、
「涙がこぼれて何も見えませんし、何も言えません」
と答えるのがせいいっぱい。『男』は、


これやこの我にあふみをのがれつつ年月ふれどまさりがほなき
(私との近江(逢う身)での生活を捨てた女だが、久しぶりに逢ってみても相変わらずの不美人ぶりだな。ずいぶんな姿になり下がったもんだ)


そう言って、『男』は衣を脱いで女に与えようとしました。ですが女はそれを受け取らず、その場から逃げてしまいました。
女の行方はそれっきりわからないのでした。


斉信
「この62段、ずいぶんと悪意に満ちた訳し方だぞ」
見習い
「こんなさげすまれた言葉でなじられるなんて、それ見たことかと『男』があざ笑ってるとしか思えません。すごく嫌いなタイプ」
斉信
「夜に呼ばれるってことは、伽(とぎ)の相手をさせられるってことだ。以前は『男』の妻として対等に、今度は客人の『男』に一夜の性の奉仕をさせられる下女の扱い。まあ気の毒といえば気の毒だね」
見習い
「60段の物語を、イヤ〜なカンジにアレンジしてますね。こんなあと味悪い話をつくるなんて、妻に逃げられ女性不信になった作り手に決まってます」
斉信
「ちょっとだけ弁解させてもらうけど、女も流されやすいタイプだったと見える。上手い話には必ず裏があるものなのに、誰かの口車にだまされ、親切心に甘えているうちにヒドイ目に。
出会い系の犯罪に巻き込まれる時の典型的な手口だな」
見習い
「女が『男』の衣を受けなかったのは、憐れみをかけられたくないっていう抵抗の気持ちからだったんでしょうか」
斉信
「近江国で暮らす自分から逃げた女をなじりながらも、とりあえず『男』は女に性の相手をさせたと思うよ。女は当然拒否できる立場じゃないしね。『男』が与えた自分の衣は、後朝に交わす衣として情けの心で女に渡したのか、一夜の伽の駄賃として「取っておけ」とばかりに下げ渡したのか、どっちなのかは判らない。
ただ、女の方は「徹底的にこの『男』にさげすまれた」と感じたから『男』の匂いのしみこんだ衣を拒否したんだと思う」
見習い
「もとはと言えば、『男』が女のもとに通うのを怠けたせいなんですよ?」
斉信
「他の男に言い寄られるほどの美人でもなし、どうせ俺から離れられっこないさ!と放置し続けたんだろう。何とも傲慢な『男』の話だったなあ」






注1:節足動物門−甲殻綱−軟甲亜綱−端脚目−ワレカラ科
注2:『言霊』中原文夫著ハルキ・ホラー文庫




 
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